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アニメの演出、スタッフさんに興味があります。

『響け!ユーフォニアム』第12話 感想 黄前久美子の孤独と自立

一人のキャラクターを追いかけて描写していく過程があまりにも素晴らしかったので感想を。
久美子が葛藤の中で自立していく姿が本当に素敵だった。


 久美子が個人練をしているところに麗奈が歩み寄っていくシーン。久美子が「私、麗奈みたいに「特別」になりたい」と麗奈を見つめる。この時の二人の影のついた表情が怪しげで、私達だけ「特別」な存在になろうと企んでいるように見えて面白かった。まるで二人で共犯者にでもなろうとしているような印象を受けた。第8話で山の上で二人が夜景の光に照らされている姿を思い出したけれど、その時とはまた違った良さがあった。


 久美子が「上手くなりたい!」と叫びながら夜の橋の上を駆けていくシーン。最初に観た時は久美子の表情と走りの作画の素晴らしさに感動しながらも、久美子が夜空と街灯の明るさと、自動車と人が行き交う中を走っていく姿があまり腑に落ちなかった。久美子が思い悩み孤独の中で上手くなりたいと叫ぶなら、人気のない夜の暗がりの中を走っていくほうが合っているんじゃないかと思えた。
 だけど、久美子が楽器が上手くなれずに独りで悩んでしまっているのは、周りが見えていないからだ。麗奈のように「特別」になることに憧れてからは、自分が鼻血を出してしまっていることにも気付かないくらいに夢中になっている。
 だから、久美子が孤独で、夢中になって周りが見えていない姿を描くなら、モノが溢れている中を走っていく方がいい。周りが見えていないことを描くために、敢えて周囲のモノがちゃんと見えるようにする、そういう巧さがあると感じた。


 だからこそ、自動車が行き交う騒音の中で塚本の声が久美子に届き、上手くなりたいと叫び合う姿が印象に残った。周りのことが見えにくくなっていても、同じような悩みを持っていた塚本の声が届き通じ合っているんだと感じられた。


 久美子が学校に忘れ物を取りに行き、滝先生に「あなたのできますという言葉を、忘れていませんよ」と言われ思わず走り出すシーン。「特別」になろうと決心した一方で、その決心に自信を持てなかった久美子が滝先生の言葉で自信を手に入れ、自立する重要なシーンだ。その後衝動的に電話で麗奈を呼び出した姿は、自信を手に入れた嬉しさに溢れている姿を描いているんじゃないかなと感じた。
 久美子のスマホの着信履歴に麗奈が並んでいる様は、毎日電話しているのに今日は出てくれない、という麗奈の不安な表情が見えたような気がして思わず笑ってしまった。


 久美子の葛藤が描かれている一方で、麗奈が変わっていく姿も素晴らしかった。

 麗奈が二人の先輩に自分は生意気だったと謝るシーン。自分の行動に絶対的といってもいいくらいの自信を持っていた麗奈が、自分の行為の過ちを認め謝るというのは衝撃的だった(「ずっと言いたかったことがあって...」という前置きも信じられないくらいだ)。強い感情が描かれているシーンではないけれど、麗奈が他人が見えるようになった姿は、周りが見えなくなっている久美子と対照的な姿が描かれているように感じた。中学のコンクールで思うよな結果が出せなくて「悔しくて死にそう...」と言っていた麗奈とそれを理解できなかった久美子。二人が変わっていく中でも、お互いが対照的な存在であり続けているというのが綺麗に構成されていると感じた。


 第12話のコンテ・演出は第5話(麗奈が髪をかき上げる回)も担当された三好一郎さん。京都アニメーションTVシリーズで各話参加された時には、作品の本質的な面白さを見抜いて、しっかりと引き出してくれる方という印象を持っている。その印象の通りに、『響け!ユーフォニアム』第12話も素晴らしい出来上がりだった。久美子が周りが見えなくなる程ユーフォニアムに夢中になっていく過程の綿密な描写は、本作の「青春モノ」の側面と真摯に向き合っていると感じられた。次回作以降も三好さんの回を楽しみにしながら京アニ作品を観ていきたい。